2020年5月25日、日本で新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が全面的に解除されました。

5月現在も流行の第2派が懸念されていますが……日本の新型コロナウイルスによる死者数・重症者数は、海外と比べると圧倒的に少なく、多くの国々で「日本は新型コロナの抑え込みに成功した」と報じられています。

日本政府の対応はスピード感に欠け、アナログ。さらに強制力のあるロックダウン(都市封鎖)も行わずに、なぜここまで被害を抑え込めたのか……と世界中でその要因が分析されています。

理由は様々で複合的なものなのでしょうが、日本の新型コロナ収束の理由の1つに、日本人の衛生観念の強さがあります。つまり、「手洗い」の徹底と「非土足文化(靴を脱ぐ習慣)」です。

日本人の衛生観念の強さは、大本をたどれば日本固有の宗教である「神道」の、「穢れ(ケガレ)思想」にあります。

今回は日本神道のケガレ思想と新型コロナウイルスの関係を見て、民俗学の視点から日本の新型コロナ対策を読み解いていきます!

【日本モデル】なぜ日本では新型コロナウイルスによる死者数が少ないのか?

日本政府の新型コロナ対策は欧米諸国と比べるとグダグダかつアナログと、国内外からボコボコに叩かれたものです。

しかし緊急事態宣言を発出し、外出自粛を求めた2020年5月、日本の新型コロナウイルスによる新規感染者数は激減。25日には関東圏や北海道を含めた全面的な緊急事態宣言の解除が発表されました。

5月現在、関東や北九州などを中心に流行の第2派が懸念される状況ではありますが、世界各国と比べると、被害を小さく抑え込められていることは明らかです。

イギリスの新聞『ガーディアン』は、「大惨事の一歩手前から成功物語へ 日本はいかにして新型コロナにタックルしたのか」と題した記事を22日、電子版に掲載しました。

アメリカの経済専門メディア『ブルームバーグ』も、「国民は移動を規制されず、レストランも理容室も営業を続け、人々の動きを追跡する最先端のアプリもなく、国は感染症に対応する専門の中央組織も持たず、検査率は人口のわずか0.2%と先進国の中では最低レベル。にもかかわらず、感染拡大は抑えられ、死者数はG7(主要先進7カ国)の中で飛び抜けて低い1000人以下にとどまっている」と報じています。

オーストラリアの公共放送局『ABC』は、「日本は、満員電車、世界で最も高い高齢者率、クルーズ船上での感染爆発、罰則なしの緊急事態宣言など、大惨事を引き起こすためのレシピを見ているようで、イタリアやニューヨークの二の舞になると懸念されたが、それは避けられた。だが、封じ込めに成功した理由はミステリーだ」と報道。

政府の対策も後手後手でアナログ、PCR検査数も海外と比べて非常に少ない。やっと発出された緊急事態宣言も強制力を伴わないものだったため、日本は世界でもっとも悲惨な目に遭うと報じられてきたのです。

しかし、安倍晋三首相は「日本モデルの力を示したと思います」と誇らしげに語って、緊急事態宣言の解除を発表しました。

この「日本モデル」をめぐって、世界中でその成功要因が分析されています。

国民が外出自粛を律儀に守ったから、欧米のようなキス・ハグの習慣がないから、マスクに拒否感をもっていなかったから、そもそも東アジア人は重症化しにくいウイルスだから、結核予防のBCGワクチンが効果を発揮したから……さらには納豆を食べているから、日本語は他の言語と比べて飛沫が飛びにくいからなどなど、バラエティ豊かな意見が交わされています。

実際にはそういった様々な要因が複合的に働いた結果だと、筆者は考えているのですが……その中でも見逃すことができないのが、日本人の衛生観念の強さです。

つまり、「手洗い・うがい」の徹底と「非土足文化(靴を脱ぐ習慣)」です。

民俗学で読み解く日本の新型コロナ対策

日本で新型コロナウイルスの死亡者数・重症者数が少ないことに対して、その成功要因の1つとしてよく議論されるのが、日本人の衛生観念の強さです。

上で紹介したガーディアン紙も考えられる成功の理由として、「個人の衛生意識が高いこと」「家の中では靴を脱ぐ文化があること」など、ウイルス感染への備えが以前からできていたことを挙げています。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏も、ABCの放送で、「日本人は手を洗う習慣があるなど、きれい好き」だと語っています。

日本人がコロナ以前から当たり前のようにやっていた、「うがい」の習慣は、日本以外ではほとんど定着していない文化でした。

米疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルスなどの感染症対策に、せっけんを使って20秒間手を洗い、流水ですすぐことを強く推奨しています

土足文化が外部からウイルスを持ち込むことになり、靴を脱ぐ習慣が新型コロナ対策になっているという議論も各国でなされています。そういった理由から、ニューヨークでは現在、家で靴を脱ぐ人が激増しています

日本に手洗い・うがいの習慣が定着したのは、日本の水道インフラが整備されているからですが……それは、国民が水道インフラを熱望したからだともいえます。

日本人は世界でも屈指のきれい好きな人種です。そんな日本人の衛生観念は、ルーツをたどれば日本固有の宗教である「神道」の、「穢れ(ケガレ)思想」にあります。

ここからは、民俗学の視点から日本の新型コロナ対策を読み解いていきます。

【ケガレ思想】日本に非土足文化と手洗い習慣があるのはなぜ?

神社の手水舎

日本には古くから、「ケガレ思想」という信仰がありました。

日本人はといった物理的な汚れから、といった概念的なものまでを、避けるべき「穢れ(けがれ)」として恐れ、万が一それに触れた者は、「みそぎ」で祓い落とさなければならないと定めました。

ケガレ思想は日本固有の宗教である神道にルーツをもち、その後、民間の陰陽道と結びついて広く定着した思想です。現在でも、神社にお参りする前には、手水舎で手や口を清めますよね

かつては死体に触れた後……つまりお葬式の後には、手や口を水で洗ったり塩で清めたり海に入って穢れを祓い落とすことが常識でした。

感染症で死亡した死体に触れることは感染リスクを高めますから、その手や口内を洗い、殺菌効果のある塩で清めることは感染症対策に非常に効果があります

新型コロナウイルスの対策として有効な手洗い・うがいとアルコール消毒を、日本では古くから行っていたのです

意外と知られていませんが、非土足文化(靴を脱ぐ習慣)もケガレ思想がもとになっています

そもそも日本では、農民の大多数が近世まで床のない「竪穴式住居」に住んでいました。高床式住居に住んでいたのは、いわゆる「天上人(てんじょうびと)」……つまり天皇家や貴族です。

身分の低い人を「地下人(じげにん)」と呼んだように、神道では、地面も汚れ(穢れ)ていると考えました

弥生時代に、収穫した米を高床式倉庫に保存したのは、米には「稲魂(いなだま)」というが宿っていると考えられていたからです。神々がおわす神社や寺はすべて高床式で作られていますよね?

ですから日本人は、今でも地べたに直接座ることを躊躇しますし、地面を歩いた靴で家の中に入るのを拒むのです。

高床式の社殿(日御碕神社)

アメリカ人は平気で地面に座りますし、地べたに直接座る人を卑下する「ジベタリアン」などという言葉も日本以外には存在しません

レジャーシートが日本でしか売られていないのも、同じ理由です。(ですから欧米では衛生観念の強い人は毛布やタオルを地面に敷きます)

アメリカが土足文化の国なのは有名ですよね。フランスやイギリスなどのヨーロッパでも、人前で靴を脱ぐのははしたないことだと考えられています。

ちなみにお隣の韓国でも、日本と同じように靴を脱ぎます。高温多湿の国は床が汚れやすいから靴を脱ぐ、という理由もありますが、同じアジアである中国では地域によって土足文化のあるなしが別れます。

またトルコなどの乾燥した中東地域でも、「穢れを外から持ち込まない」という宗教的な理由から靴を脱ぐそうです。ですから気候がすべてとはいえません。

欧米では、手洗いはまだしも、一度口に入れた水を吐き出すなんて信じられないと、うがいの習慣がない国がほとんどです。

日本固有の宗教であった神道のケガレ思想が、何千年も経って日本の新型コロナウイルス対策に繋がっていたのですから、古い教えを一概にすべて迷信だと切り捨てることはできません

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