これはかつて、東京都西部のスーパー従業員3人が射殺された『八王子スーパー強盗殺人事件』に関する記事の【パート4】です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1~3】をお読みください。
事件の解説
本事件における捜査本部の見立てによると、犯行動機を「強盗説」と「怨恨説」の両面の可能性を示唆。本事件において、なぜこれら2つが定説となっているのかということは、事件の詳しい状況をみれば納得できる。これから挙げるのは、それぞれの説が持ち上げられている理由である。まずは「強盗説」から。
強盗説
店のセキュリティ面に問題があった
本事件の舞台となった「ナンペイ」において、セキュリティ面でその建物の造りに瑕疵(かし)があったこと、経営陣を含めた従業員の防犯意識が希薄であったことは否定できない。
例えば、同店は店舗と事務所が建物内で行き来できない造りになっており、売上金を事務所内に保管するためには、売上金を持って一度店の外へ出なければならなかった。レジの引き出しごと抜き出し、多額の現金をむき出しのまま事務所へ運んでいる様子を近隣の住民は日頃見て知っていた。
また、営業中も無人の事務所ドアに鍵がかけられていないことが多かったことも指摘されている。これは従業員の少ない夜間においても同様であった。現にそれまでに店は何度も空き巣被害に遭っていた。さらには、夜間の営業を女性従業員だけに任せていたことも多かった。
こうしたことから、同店は”セキュリティの甘いスーパー”として近所では有名であり、空き巣や強盗などに狙われやすい環境であった。となれば、悪意を持った人間がそんな店をターゲットとするのは、もはや当然といえる。
売り場には4台の防犯カメラがあったが、これに録画機能はなかった。時代背景もあるが、録画機能を持たない防犯カメラはほぼ無意味である。
もしもこれに録画機能が付いていたなら、事件当日に店内で目撃された不審者を特定できたかもしれない。
一度店の外へ出て、外階段から事務所へいく
画像引用:産経ニュース
「ナンペイ 大和田店」の危機管理の甘さは先述のとおりであるが、やはり致命的であったのは女性従業員だけ(ましてや10代の女子高生を含む)で夜間の営業を任せていたことである。現に本事件が起きたのも、夜間に女性従業員2人のみで営業していた日である。事件当夜、店内を覗く不審な男が目撃されていたことから、犯人が”女性従業員だけの日”を確認した上で犯行に及んだことは間違いない。
当時、稲垣さんは店のこうした現状に不安を抱いており、周囲の人物にそれを漏らしていたという。稲垣さんはその不安を募らせ、一度は店を辞めた。その後、店側から強く復帰を求められ、これに応じた。復帰直後、皮肉にもその不安は現実のものになってしまった。
事件当時、周辺地域ではスーパーなどの事務所を狙った夜間の強盗事件が多発していた。そうした中でのこのような体制であった。本事件は経営者のずさんな管理体制が招いたことは間違いない。
店では毎日のように”あるべき売上金とレジ内の現金が1万円合わない”というようなことが起きていたという。こうしてみるとその管理体制は最悪で、外部からも身内からも”甘くみられていた”のだろう。
こうした内部秩序の乱れも、稲垣さんを不安にさせていた。
犯行現場の状況から
犯人が金庫内の現金持ち出しに失敗した形跡がみられる。金庫には鍵が差し込まれたままになっており、これは犯人が稲垣さんを脅して金庫を開けさせようとしたとみられている。ところが稲垣さんはこれに応じなかったと推測。
犯人が発砲したのは計5発。そのうち4発は3人殺害に、残り1発は金庫に発砲されていた。このことから犯人は金庫をこじ開けようと試みたとされるが、発砲音を聞きつけて近隣の人が駆けつけるのを恐れ、現金を諦めて逃走したか。
事件発生前の不審者
事件発生前に目撃されていた不審者たち。
- 店内を覗き込んでいた男
- 何を買う様子でもなく売り場をうろついていた男
- 店の前を車で徐行しながら、運転席から店内の様子を窺っていた男
- 閉店後の店舗脇で佇んでいた男(車のライトが当たると顔を背けて足早に立ち去った)
これらは同一人物、またはそれぞれ関係のある人物同士であるかは定かではない。とはいえ、これらの男が犯人(たち)であり、犯行前の下見をしていたと考えるのは何ら不自然なことではない。
これは強盗説と怨恨説、両方に当てはまるともいえる。しかし綿密に行われた犯行の様子からは、どちらかといえば強盗説の匂いを強く感じる。
続いて「怨恨説」について。【パート5】へ。