これはかつて、京都府の山中で2人の主婦が凄惨な死を遂げた『長岡京ワラビ採り殺人事件』に関する記事の【パート7】です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1~6】をお読みください。
【未解決事件】『長岡京ワラビ採り殺人事件』を徹底解説
【パート1】【パート2】【パート3】【パート4】【パート5】【パート6】
本事件の容疑者
殺害された明石さんの夫
自身の妻が殺害されてしまい、被害者遺族であるはずの明石さんの夫。いわば被害者である彼になぜ疑いの目が向けられたのか―。
これには事件後の彼の振舞いが原因であった。というのも、この夫は妻である英子さん(明石さん)の死亡により下りた保険金で新車を購入したり、ほどなくして恋人を作っていたという。
これに対し、水野さんの夫は受け取った保険金を事件捜査に協力する形でこれを京都府警に寄付している。
こうしたことから、警察は明石さんの夫に対して嫌疑を抱くことに。しかしながら確たる証拠はなく、あくまで嫌疑の範疇に留まった。
人さらいの一族
事件の舞台となった長岡京市の特定の地域では、”事件現場となった山の界隈には人さらいをはたらく一族が住んでいる”という噂が存在していた。
ここで気になるひとつの証言がある。以下に記すのは、同市内に住むW・Kさん(精肉業/72歳:2016年当時)の証言である。
:本事件に関するインタビューを受けて
―”またか”って思いましたよ。あの界隈にはね、昔から「人さらいの一族」が住んでいるっていう噂が地元の連中の間であったんですよ。だから容疑者の目撃情報がちらほら出てくるのをみて、”一族の正体が明らかになるかもしれない”って思いました。周りの連中も口には出しませんが、おんなじことを思ったはずですよ。
(中略)
―私ら地元の人間はね、一族の人間が犯人であるといまだに思っていますよ。なにせ、あの辺り(野山)では”女が姿を消す”っていう話は、あの事件が起きる遥か昔からありましたから。
事件から37年経った2016年という現代においても、事件当時に容疑者が続々と浮上した状況を振り返りながら、まるで怖い言い伝えのような話を信じている人がいる。
目も当てられないほどの凄惨な事件―。これが「人さらいの一族」の仕業などという、まるで都市伝説のような話は決して流布してはならないし、誰も信じてはいけない。それは犯人にとってこれほどにない好都合であるからだ。
このとおり、都市伝説めいた話を熱心に語っていたW・Kさんであったが、その証言のすべてが”トンデモ”であったわけではない。彼が言う”昔から女性が姿を消す”という点に関していえば、その信憑性は高いと思われる。というのも、本事件が起きた当時から、野山では強姦事件などの女性が被害者となる事件が多発していたからだ。
恐らくこの「人さらい一族説」については、野山で起きたさまざまな事件の話に尾ひれがついて出来上がったということで間違いない。
そのため、本記事終盤でお伝えする本事件の考察を前に、この事件の犯人が「人さらい一族」であるということはここで予め否定しておく。
本事件 唯一の生存者
実は事件当日のワラビ採りには、もう1人同行していたといわれている(これを「Aさん」とする)。そしてAさんは事件発生前に下山したために殺害から免れた(山で昼食を摂らずに帰ったと思われる)。
このAさんについての詳細は明らかになっていない(その理由は後述)。気になるのは、Aさんにおける明石さん、水野さんとの関係であるが、これについては3人が「パート仲間」であったというのが一般的な説である(つまり、Aさんも2人と同じスーパーで働いていた)。しかし本記事は、Aさんが工場でのパート勤務をしていたという事実を掴んでいる。これは1984年(昭和59年)5月16日の毎日新聞が報じていることから確かである。
このように、Aさんに関する情報は少ない。そのため、これは想像の域を出ないが、以下はここでの筆者による推察。
Aさんは明石さん、水野さんとは「主婦仲間」であり、2人とは比較的親しい関係であった。
Aさんは2人に誘われて事件当日のワラビ採りには加わったものの、昼食までは2人と共にせず、ワラビだけを採ってすぐに下山した。
この日の午後にAさんに予定があり、そもそもこの日の参加は”お付き合い程度”で同行した。山中でワラビ採りをしていた3人であったが、Aさんは正午前に下山。2人を残して帰宅した。
まるで運命のいたずらのように、本事件における唯一の生存者となったAさん。ところが―。
Aさんにつながる「もうひとつの事件」―。【パート8】に続く。