オカルトオンラインでは以前、お賽銭のルーツやマナーを紹介しましたが、今回はお賽銭(さいせん)の作法「投げる」についてお話しします。
皆さんはお賽銭を投げていますか?
賽銭箱に硬貨を放り投げる人も多いと思いますが、「投げるのはマナー違反」、「神様に失礼」と指摘する人も見かけます。しかし歴史をひも解くとお賽銭は昔から投げ入れられてきたようで、歴史的には正しい作法だと言う専門家は多くいます。
では、なぜ日本人は一見失礼な「投げる」という方法で神様にお賽銭を納めたのでしょうか?
今回は日本人がお賽銭を投げてきた理由について、4つの説を紹介します。
①お賽銭は神様に納めているものではないから
前回の記事でも紹介したように「お賽銭」のルーツは「散米」で、豊作や願いが成就したことへの感謝の気持ちとして、米を神様に供えていました。貨幣経済の影響で、室町時代に散米はお金を供える「賽銭」へと変わりましたが、「賽」の字には神様への感謝の意味が込められています。
さらに貨幣経済の本格化にともなって「ご利益をいただくために賽銭を供える」という商人が増え、願いが叶ったことに対する感謝の気持ちとしてのお賽銭は、いつの間にか「願いを叶えてもらうためのお賽銭」に変化してしまいました。
貨幣経済は神社側へも影鏡を与えました。
お賽銭は神社を維持するために必要不可欠なものになり、「神社側がお賽銭を回収し神に祈ることで、民の願いを叶える」という共通意識が生まれ、お賽銭はさながら商取引のような性質に変化してしまったのです。
たしかに神道で神がお金を求めたことなど一度もないですし、そもそもお金なんて必要としません(日本の神が求めるのは祭りです)。
あくまでも神がおわす神社を維持するためのお金。その結果、人々は「お賽銭は神様に供えているのではなく、自身の願いを叶えるために神社や神職に納めているのだから投げてもかまわない」と思うようになりました。
仏教ではお寺や僧にお金を寄付することを「喜捨(きしゃ)」と呼びますが、これは「喜んで捨てる」という意味です。神仏習合が進んでいた日本では、同じようにお金を捨てる=投げるという意識が定着したと考えられます。
②神様に気づいてもらうため
お賽銭は硬貨を投げ入れるのが一般的です。
これは「音」を鳴らすことで、神様に気づいてもらうためだという説もあります。
お賽銭の前に縄を振って鈴を鳴らすのも同じ理由。願いを叶えてもらうために神様にアピールする、というわけですね。
もともと日本では鈴の音が神霊を呼び寄せると考えられていて、弥生時代にも銅鐸(どうたく)という鈴の祭器が大量に作られました。
この説が正しいのなら、お賽銭にはお札よりも硬貨の方が適しているのかもしれませんね。
③魔除けのため
この説は②とも関係があるのですが、そもそもなぜ鈴が神霊を呼び寄せると考えられたのでしょうか?
一般的には、鈴の清らかな音が邪気やケガレを祓(はら)うからだとされています。魔除(よ)けに使われた「破魔矢(はまや)」に小さな鈴が付いているのも同じ理由ですね。
鈴に限らず鉄砲や鏑矢(かぶらや)など、音の出るものは総じて魔除けに用いられました。
つまりお賽銭を投げ入れるのは、魔除けの音を鳴らして自身の邪気を祓い、清らかな心身で神仏の前に立つため、ということです。
④ケガレを祓い清めるため
この説は一見③に似ていますが、本質はまったく異なります。
お金にはケガレを吸引する力があり、穢(けが)れてしまったお金を投げ捨てることで投げた本人は祓(はら)い清められ、清新な心身で神様に向き合うことができるというのです。
例えば大分県のある集落では、厄年の人は自分の歳の数だけお金をまくという風習があり、これはお金にケガレを吸引させて、それを投げることで厄を払うのです。
似たような習俗は他にもあり、京都の神護寺や神奈川県の大山寺などでは瓦を投げてケガレを払います(かわらけ投げ)。ひな祭りの元になった、川にひな人形を流す「流し雛(ながしびな)」も同様です。
この機能に注目したのが國學院大學の民俗学者 新谷尚紀氏で、貨幣には経済的な意味だけでなく、古くは災いや汚れを吸い寄せる経済外的な意味もあったといいます。次の2冊の本でくわしく解説されていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
人々は神社にお賽銭を投げ入れることで自身のケガレを浄化する(祓い清める)と同時に、清らかな心で神様の前に立つことができた、ということですね。
今回は「なぜ日本人がお賽銭を投げてきたのか」について4つの説を紹介しました。個人的には新谷氏の説がもっとも理と歴史観にかなっていると思います。
お賽銭を投げるのは歴史的には正しいようですが、もちろん一番大事なのは各人の心の持ちようですから、静かに納めても問題はありません。
ちなみに神社本庁の公式ウェブサイトでは……
お賽銭箱にお金を投げ入れるところをよく見かけますが、お供物を投げてお供えすることには、土地の神様に対するお供えや、祓いの意味があるともいわれています。しかし、自らの真心の表現としてお供えすることなので、箱に投げ入れる際には丁重な動作を心掛けたいものです。
引用元:神社本庁公式ウェブサイト
……と、お賽銭を投げることにケガレを祓う意味があることを記しつつも、投げるにしても丁重に投げることを勧めています。丁重に投げるというのも、なんとも矛盾した感じですが(笑)