【事件】ドッペルゲンガー(分身)を利用した殺人計画事件 -後編- 【実録シリーズ】

※これはかつて全米を震撼させた『ドッペルゲンガー殺人計画事件』に関する記事の【】です。本記事をお読みになる前に、ぜひとも【前編】/【中編】 をお読みください。

【事件】ドッペルゲンガー(分身)を利用した殺人計画事件 -前編- 【実録シリーズ】

【事件】ドッペルゲンガー(分身)を利用した殺人計画事件 -中編- 【実録シリーズ】

『ドッペルゲンガー殺人計画事件』

母アラを殺害された娘ナディアと私立探偵ハーマンが奔走している頃、犯人ビクトリアは逃亡先のニューヨークで金品を奪う犯行を尚も繰り返していました。

そんな中、ビクトリアは再び国外逃亡を企てます。しかし国際指名手配犯となっていた彼女がアメリカを出国するためには、偽造パスポートが必要でした。そこで彼女が考えたのが、”自分そっくりの女性を殺害し、その女性に成りすますこと“。これこそが、後に語られることになる2016年8月に起きた『ドッペルゲンガー殺人計画事件』です。

この逃亡計画の被害者となったのは、ウクライナ出身のオルガ・ツウィク。こともあろうに、彼女はビクトリアとよく似た美しい女性でした。ターゲットを見つけたビクトリアは、彼女が働く美容サロンにおよそ半年間通います。そうしてビクトリアはオルガとの親交を深めていきました。
そしてある日、オルガはビクトリアを自宅へ招きます。このときビクトリアは手土産の毒入りチーズケーキを彼女に差し出し、殺害を試みます。これを食べたオルガは激しく嘔吐、やがて昏睡状態に。その間にビクトリアはオルガのパスポートや免許証を奪い去ったのです。
昏睡状態に陥る前に辛うじて救助隊を呼んでいたオルガ。その後到着した救助隊の措置によって一命をとりとめ、ビクトリアのオルガ殺害計画は失敗に終わることになります。とはいえ、自分の分身となる人物の身分証を手に入れたビクトリア。彼女の逃亡劇は続きます―。


ドッペルゲンガーのターゲットとなったオルガ(左) 国際指名手配犯ビクトリア(右)
画像引用:東洋経済ONLINE

ドッペルゲンガー殺害計画事件(オルガの殺害未遂事件)が起きてから約半年後の2017年3月、私立探偵ハーマンはビクトリアが潜伏するアパートの近くで張り込みをしていました。
ほどなくすると、アパートから1組のカップルが出てきました。男性とアパートから出てきた女性はどことなくビクトリアに似ていましたが、ハーマンが知るビクトリアからは想像もできないほどに太った姿でした。それは普通であれば、”別人だ”と見過ごしてしまうほどの豹変ぶりです。しかし多くの経験を積んだハーマンは”彼女がビクトリアである”という決定的証拠を見逃してはいなかったのです。その決定的証拠、それは彼女が履いていた靴でした。

“逃走犯は見た目を変えても、靴は替えない”

これは”人の靴をみる”というハーマンの警察官時代に培ったノウハウでした。ビクトリアと思しきその女性がこのとき履いていた靴が、以前ビクトリアがFacebookに投稿した写真で履いていたものと同じだったのです。
国際指名手配犯の潜伏先―。ハーマンの掴んだこの情報によって警察がビクトリア逮捕に動き、世紀の悪女の逃亡劇は幕を閉じることになりました。

ビクトリアの逮捕。それは最愛の母を殺害されたナディアのおよそ2年半にも及ぶ執念が実を結んだ瞬間でした。

事件における筆者の解説

【事件の犯人であるビクトリアの人物像について】
ビクトリアはそのコミュニケーション能力が非常に高いことが窺える。それを裏付けるように、ロシアでナディアの母アラが暮らすアパートへ引っ越してきた際に、隣人であったアラとすぐに仲良くなっている(隣人女性殺害事件)。
また、ドッペルゲンガーとして狙いを定めた自分とそっくりの女性オルガに対しても同じことがいえる。従業員(オルガ)と客(ビクトリア)という関係であったにもかかわらず、わずか半年という短い期間でオルガに自宅へと招かれている(ドッペルゲンガー殺害計画事件)。

ビクトリアが逮捕された最大の要因は、彼女の強い自己顕示欲だった。彼女は国際指名手配犯という逃亡の身であったにもかかわらず、Facebookという巨大SNSで自身の写真を惜しげもなく公開していた。
これらの写真はもとより、彼女が他ユーザーの投稿に付けた「いいね!」―。逃亡犯であるにもかかわらず、SNSを利用していたということに関しては愚かとしか言いようがない。
また、彼女の潜伏先特定のカギとなった”ビクトリアのサングラス写真”。これはサングラスに映り込んだ景色が決め手となった。いまや瞳に映った景色からその写真に写った人物の所在が特定可能ともいわれている中で、自身の顔を隠すためとはいえサングラス姿の自撮り写真をSNSへ投稿する。これは危機管理能力が欠如していると言わざるを得ない(そのおかげでビクトリア逮捕につながったのですが)。
ともあれ、この一連の事件はビクトリアが自身の金銭欲に駆動され、自己顕示欲で身を潰した出来事であるといって間違いない。

事件の懸念すべき点
これは間違いなく、ナディアの母アラの”人がよい”という性格にあった。それを象徴するように、アラはビクトリアが隣へ引っ越してきてから僅か1か月後に、ニューヨークへ行くというビクトリアに約65万円という大金や高価なコートを預けている。これはニューヨークに住む娘ナディアへ渡すものとして、ビクトリアへその仲介を頼んだものであった。ところがこれはアラとビクトリアが出会ってから僅か1か月ほどでのやりとりであり、貴重品の受け渡しをするには二人があまりにも希薄な関係であったことは否定できない。
そもそもビクトリアが突如として”ニューヨークへ行く”と言い出したのも、アラの娘ナディアがニューヨークで暮らしていることをアラから聞き出したからに違いない。外面(そとづら)がよく頭の回転が速いビクトリアに、アラはその”人のよさ”につけ込まれてしまったのだ。

『ドッペルゲンガー殺害計画事件』の前哨である「隣人女性殺害事件」は、アラの無防備さが招いてしまったといえる。少々乱暴な言い方をすれば、ビクトリア同様にアラもまた危機管理能力が欠如していた。もちろん悪いのはすべてビクトリアですが。

人は誰もが唯一無二の存在であり、ドッペルゲンガー(分身)など存在しないのかもしれません―。

テンペワゾウスキ

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