「科学の進歩に犠牲はつきものだ」
20世紀のSF映画に登場するマッドサイエンティストが、実験に失敗したときよく吐いていた。
コンプライアンスや倫理が重視される21世紀(現代)では、もちろん通用しないセリフだ。
SpaceX社が今年5月30日、民間企業初の有人宇宙船の打ち上げに成功し話題になったが、
SpaceX Crew Demo 2 (Launch)/YouTubeより
宇宙開発の歴史は華やかなものばかりではない。
人類初の宇宙飛行士は、宇宙に行った初の宇宙飛行士ではない?
人類初の宇宙飛行士は、ご存知のとおり旧ソ連のユーリイ・ガガーリンだ。
だがもしかしたら、ガガーリンは宇宙に行って無事に帰ってきた人類初の宇宙飛行士であって、宇宙に行った最初の宇宙飛行士ではないかもしれない。
幼い頃に雑誌か何かでこの噂を読み、胸の奥がざわついたのを覚えている。
今でいう「都市伝説」の一種だが、気になったのであらためて調べた。
「Lost Cosmonauts(失われた宇宙飛行士)」(Wikipedia)の情報によると、
1961年4月12日、ボストーク1号でガガーリンが宇宙に飛び立つ5日前の4月7日、ウラジミール・イリューシンという宇宙飛行士が軌道上までロケットで打ち上げられたが、帰還時にロケットはコースをはずれて中国領土に落下し、イリューシンは瀕死の重傷を負ったという。
※実際にウラジミール・イリューシンというソ連のテストパイロットは存在しているが、ボストーク1号の打ち上げ2日前の4月10日、自動車事故に巻き込まれ負傷したことになっている。
それよりももっと驚いたのは、ソ連はガガーリンの前に少なくとも2回ロケットを宇宙へ打ち上げ、いずれも失敗し、複数の宇宙飛行士が地球に帰還できずに死亡しているという話だ。
Wikipediaの情報なので公的な発表ではなく、あくまで都市伝説としてとらえるべきだが、読んでいくうちに胸がつまった。
ガガーリンより前に宇宙に飛び立った宇宙飛行士たち
1959年12月イタリアの通信社が報じたニュースでは、1958年初頭にアレクセイ・レドフスキー、アンドレイ・ミトコフ、セルゲイ・シボリン、マリア・グロモヴァら4名の乗った改良型R-5Aロケットがロシア南部のカプースチン・ヤール基地から打ち上げられたが、失敗に終わり、全員死亡した。
チェコ共産主義者からのリーク情報だという。
私の大好きなタイムトラベル小説「夏への扉」
や、ガンダムに登場するモビルスーツのヒントになった「宇宙の戦士」
の著者、SF作家のロバート・A・ハインラインが、1960年にソ連軍から得た情報によれば、1960年5月15日にコラプトル・スプートニク1という名の宇宙船が打ち上げられたが、姿勢制御に失敗し、宇宙船カプセルは地球を超楕円軌道で周回するコースに入ってしまったと伝えている。
ソ連は無人機だったと主張しているが、噂では有人だった可能性がある。
ソ連の宇宙船カプセル(ボストーク1号)(Wikipediaより)
幻の宇宙飛行士の通信を傍受したアマチュア無線家の兄弟
噂の発端になったのは、ジュディカ・コルディリアというイタリアのアマチュア無線家の兄弟からの情報だ。
兄弟たちは1957年からソ連とアメリカの宇宙開発の通信記録を無線で監視していたが、1960年5月、宇宙船の乗組員からの予定のコースを外れたという通信を傍受する。
1960年11月28日には、地球の軌道からはずれた宇宙船からのかすかなモールス信号によるSOSをとらえ、スイスやイタリアのラジオ局で取り上げられて話題になった。
ジュディカ・コルディリア兄弟はこの2つを含め、合計9つのソ連の宇宙船のものだと思われる通信を傍受している(Wikipedia)。
とくに1961年2月にとらえた通信の内容は衝撃的だ。
海外のミステリーサイト「MYSTERIOUS UNIVERSE」にその記事が掲載されていたので紹介したい。
人類初の女性飛行士は誰か?
●最初の女性宇宙飛行士は、本当は誰か?
2011/8/16 MYSTERIOUS UNIVERSEより
1961年2月17日、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられた宇宙船には男女2人の宇宙飛行士が乗っていた。
2人は定期的にソ連の宇宙基地と交信していた
男性:すべて順調です。規定の高度を維持しています。
しかし1961年2月24日の通信で、異常を告げる2人の会話が記録される。
5秒間の沈黙の後、女性の声が入る。
窓の外を見て! 窓の外を見て! 私はしっかり握っています・・・
数秒後に男性が叫ぶ。
男性:何か、何かおかしい! 何かがおかしい! 難しい・・・ われわれが外に飛びさなければ、世界の誰にも知られることはない。難しい・・・
2人を乗せた宇宙船カプセルは予定のコースを大きく外れ、宇宙の深い闇へと消えていった。
男女の宇宙飛行士たちに何が起こったかのか、正確に知る者は誰もいない。
もし無事帰還していれば、少なくとも彼女は人類初の女性宇宙飛行士の栄誉を与えられるはずだった。
実際の女性初の宇宙飛行士は、1963年6月16日ボストーク6号に搭乗したワレンチナ・テレシコワである(Wikipediaより)。
もう1つ、同じく「MYSTERIOUS UNIVERSE」から。
こちらも切なくなる記事だ。
大気圏で燃え尽きた女性宇宙飛行士
●失われた宇宙飛行士のミステリー
2020/2/25 MYSTERIOUS UNIVERSEより女性の声:
誰か答えてください!
暑い! 暑い!
え! 何で45度もあるの? え! 50度!
酸素、酸素…暑い…
はい、今送信をはじめます。
41度! はい、暑く感じます。
すべてが熱い!
32度、32度! …クラッシュするんですか?
聞いています! 暑い…再突入します…あつい!
声の主はリュドミラという女性の宇宙飛行士で、1963年11月、彼女の乗った宇宙カプセルは大気圏の再突入時に燃え尽きてしまったとされる。(幻の宇宙飛行士/リュドミラより)
宇宙飛行士の死はなぜ、こんなにも胸につまるのだろう。
昨日、今日、今この瞬間にも、世界中で事故や病気によりたくさんの人々が亡くなっている。
でもなぜか私には、幻の宇宙飛行士の話が胸につまるのだ。
宇宙空間に亡骸がただよう光景は、どんな死よりも孤独を感じてしまう。
人類初の月面着陸に成功したニール・アームストロング船長の半生を描いた映画「ファースト・マン」にもそんな宇宙飛行士の悲哀が描かれている。
●参考:『未来塵』「幻の宇宙飛行士の死」