兵庫県といえば、心霊スポットの多い場所です。なんといっても最恐は「甲山」でしょうが、大阪府と京都府の県境にある「妙見山」も外せませんよね。
今回紹介するのは、兵庫県のとある心霊スポット「F山〇峠」にまつわる本当にあった怖い話です。読者の方から投稿をいただいた実話怪談になります。
実話ですので、場所を詳しく明かすことはできませんが……本当にゾッとするお話ですので、注意して読んでくださいね。
兵庫県の心霊スポット「妙見山」についてはコチラで詳しくまとめています。また福岡県最恐の心霊スポット犬鳴峠で起こった実話はコチラでまとめています。ぜひご覧ください。
大学生だったときのお話です。
当時私が勤めていたバイト先では、毎年夏になると仕事終わりに「心霊ツアー」とうたって、地元兵庫県内の心霊スポット巡りをするのがお決まりでした。
私は元来そういった類のモノは信じないタチでしたが、若くもあり、心霊スポットツアーにつきもののバカ騒ぎは好きだったので、毎回恒例のように参加していました。私は親の仕事柄、ほとんど旅行に連れて行ってもらったことがなかったので、兵庫県内の近場でも嬉しかったというのもあります。
ちょうどその日もバイト上がりに肝試しに行くことになっていたのですが、あいにく小雨がパラついていたので、私はいったん断りました。しかし、バイト仲間と先輩のノリに押し切られ、ついつい心霊スポットツアーに参加することとなったのです。
狭い軽自動車に男4人で乗り込みました。ろくにエアコンも利かない車内でギュウギュウ詰め、音楽だけはバカみたいにデカく、夜通し騒いで目的の心霊スポットへ向かいました。今では考えられませんが、なにしろ若かったのです。
目的地は、兵庫県F山〇峠。カーナビに入れてスタート。この山には、当時ある噂が広まっていました。
首なしライダーの幽霊が出るというのです。うろ覚えですが、話としては次のようなものだったと思います。
夜更けに峠道を車で走っていると、後方からライトが1つ迫ってきます。
こんな時間にバイク? ここは灯りもなくて真っ暗な山道。しかもだいぶ曲がりくねっています。
命知らずだなぁと思いながらしばらく車を走らせますが、いつまで経ってもライトは消えません。上り坂を一緒にツーリングしているかのように、一定の車間距離を保って追いかけてくるのです。
ルールを守っているので文句を言う筋合はないのですが、快くはありません。人によってはイラつくでしょうし、場所柄、不気味に思う人もいるでしょう。
いずれにせよ、ほとんどの人はアクセルをふかして峠道で事故ってしまうといいます。そこで事故をした人は、みな口をそろえて同じようなことをいうのです。
しかし、なかには停車したり、道をゆずった者もいました。彼らが見たのは、自分たちを追い越していく、首なしライダーの姿でした。
恐怖の首なしライダーを見るか、事故を起こすか……そんな二択を迫られるのが、ここF山〇峠だそうです
私たちは、F山の漆黒の峠を頂上へ向かいました。当時は走り屋の集結する場所でしたが、その時は深夜で雨も降っていました。
対向車とすれ違うことすらなく、てっぺんに着きました。これで心霊スポットツアー前半の終了でした。
なんてことはありません。いつも通りです。この心霊スポットツアーで実際に心霊現象を経験したことはありません。それでも続ける理由は、バカ騒ぎをする口実がほしかっただけです。
車から降りると雨はやんでいて、かわりに霧が立ちこめ始めていました。Tシャツが、ぴちっと体にまとわりつきます。私たちは自販機でコーヒーを買い、心霊スポットの空気をふざけて吸ったり、マルボロを吹かして談笑しました。この時間を味わうために、毎年深夜に心霊スポットに行ったものです。
15分ほどの休憩の後、車に乗り込みました。楽しい時間も終わりです。
ちなみに私は眼が悪いので、心霊スポット巡りで運転させられることはありませんでした。もし私があのとき運転していたら……恐怖のあまり事故を起こしていたかもしれません。
首なしライダーを見たのではありません。私たちはその帰り道、首なしライダーよりも恐ろしいものを見たのです。
F山の帰り道。
霧が濃くなったので、フォグランプを点けて最徐行で進みます。届きの悪いハイビームで、ゆっくりと下って行きました。
ちょうど大きなカーブに振られた時でした。ライトが「それ」をかすめ、木々のあいだに白い人影を浮かび上がらせました。
私は一瞬ギョッとしましたが、すぐに人形だと思いました。誰かのイタズラだと思ったのです。ここは心霊スポットですから、ああやって肝試しに来た連中を驚かすために誰かが用意したのでしょう。
なるほど、うまい所にしかけやがると感心しました。あそこなら突然現れて、振り返って確認もできないからです。心霊現象というのは、こうして語られるのでしょう。
誰も気づかなかったようなので、私はあえて口にしませんでした。しかけた者の思い通りにされてはシャクだったからです。
そのまま山を下り、心霊スポットツアーおなじみのコンビニに車を停めました。しかし運転していた先輩がサイドブレーキを引くや否や、唐突に口を開いたのです。
「さっきの首を吊った男を見たか?」
私は氷つきました。残りの2名も口々に、「オレも、オレも」と言いはじめました。
これで、4人全員が同じものを見たことになります。兵庫県の県境にあるコンビニで、眩しすぎる店内照明を浴びながら、私たちは黙りこくっていました。めずらしくタバコを吸う者もなく、ラジオは地元のAMがかかっていました。
が、すぐに議論がはじまりました。そして当然、意見がわかれます。つまり、イタズラかゴミか幽霊か自殺か……です。
騒いでいると、時間も時間だったので、コンビニの店員が見に来ました。先輩は店員に、自分たちが見たものの話をしました。すると、
「自殺だろうね。あそこではよく首つりがあるんだよ。人目につきにくいからね。まぁ、自殺者の霊っていうのもあるかもしれないけど……とにかく、あそこにふざけて行くのはオススメしないよ」
店員の情報も交えて、話はとまりません。私は現実的になろうと訴えました。結果、イタズラかゴミ、もしくは自殺者に絞られました。
しかしこの結論では問題があります。モノならいいですが、本当の自殺者だったのなら……あのままにしておいていいのでしょうか。
「まだ息があるかもしれない」という先輩の一言で、私たちは心霊スポットへ戻ることに決まったのです。
私は内心舌打ちしました。イタズラかゴミに決まっているし、もし仮に人間だったとしても、あんな人目に付くとこで首を吊る「かまってちゃん」は放っておけばいい。そもそも自殺ならもうとっくに死んでる。今さら行ったところで変わりやしません。
「あのまま放置しておくのは仏様に申しわけない」と、先輩は普段と違って、妙にしおらしいことを言いました。ふと、先輩の実家を思い出しました。寺だったか神社だったか忘れましたが、たしかそんな家柄だったように記憶しています。
現場に着くまでそんなことを考えていましたが、今思うと、明らかに現実逃避でした。バカらしいと思うかたわら、私はなにかに、恐怖していたのです。
車は心霊スポットの峠に舞い戻り、例のカーブの手前で停めました。道幅が広くなっていて、停められそうなとこはそこしかなかったからです。簡易工具セットに入ったショボい懐中電灯を頼りに、私たちは現場へ向かいました。
詳しいいきさつは思い出せませんが、車に2人待機させて、残りの2人で見にいくことになりました。いったい誰の提案だったのかは覚えていませんが、私と先輩とで、さっきのカーブへ向かいました。
ただでさえ弱々しい照明の間隔は広く、懐中電灯の明かりだけが頼りでした。山の冷気が、貼りつくTシャツを冷やしまします。いつもはうるさいくらいなのに、虫の音がまったく響いていなかったことを、今でも覚えています。
カーブに着きました。振り返れば、見えるのは待機しているヘッドライトの明かりだけ。
それらしい木を照らしてみましたが、おかしなものは見当たりません。
自殺者もおらず、人形もない。ということは、ビニールか布が引っかかっていただけでしょう。
「おい!」
先輩が声をあげ、光で円を描きました。そこにあったのは垂れたヒモでした。ヒモだけ……。
「アレに人形を吊るしたんですかね?」
「バカ! 自殺だろ!」
先輩は怒鳴り返しました。
「じゃあ、死体は?」
先輩は下を照らしました。あちらこちらに光を飛ばし、ヤブの中へも入ってみました。――が、何もありません。
見上げればヒモが一本、ヘビの抜け殻のようにだらしなく垂れ下がっているだけです。
「イタズラですよ」
「いや、自殺かもしれない」
食い下がらない先輩。面倒なことになったな、と思ったそのとき。
がさり、と音がしました。ばっと振り返ると、血まみれの男が立っているではありませんか!
ううううう、と喉が潰れたような声をもらしています。目は血走っていました。
私と先輩は、2人で野太い声をあげて走り出しました。ダッシュで車に乗り込むと、すぐに発車させ、さっきのコンビニに戻りました。
私たちが見たものはやはり自殺者の幽霊だったのだ……そう結論づけ、その日は解散しました。
家で一人でいると、あの血にまみれた顔が脳裏に張りついたように離れません。しかしそのとき、ふと思ったのです。
首つり自殺者の霊ならば、どうして血まみれだったのだろう……と。
そんな私の疑念は、翌日解氷することになりました。新聞に、ある事件が載っていたのです。
「F山で殺人事件」「ひとけのない濃霧の山中で行われた」「自殺に見せかけるためロープにかけて殺害」「目撃者によって計画が頓挫」「バラバラにして死体遺棄」
息を止めて読み込んでいると、犯人の写真が載っていました。それはなんと、昨日話しかけてきたコンビニの店員だったのです!
あの店員は、首つり自殺に見せかけて、遺体をロープにぶら下げておいたのでしょう。それを私たちが目撃したのです。
翌日以降に見つかる予定だったのに、私たちに死体を検められては困る――店員はそう考え、現場に戻り、死体をおろしました。
おそらく、殺人の証拠かアリバイか……理由はわかりませんが、とにかく不都合があったのです。犯人は計画を変更し、バラバラに切断し、山中に隠すことにしました。しかしもう夜明け近くで、近所の老人に発見され、逮捕にいたったようです。
ということは私と先輩が目撃した幽霊は、犯人だったのか。あの血は、バラバラにした際の返り血……。
心霊スポットツアーが行われることは、その後二度とありませんでした。結局私たちは、最後まで本当の心霊現象を体験することはなかったということになります。
ですが、心霊現象の方がマシだったのかもしれません。殺人事件に巻き込まれるよりは……。
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