暗く重いへヴィメタルの中でも「ブラックメタル」と呼ばれるジャンルは、よりノイジーで狂気じみたサウンドが特徴です。
一方、その歌詞は宗教的な思想が強く、メンバーは悪魔崇拝者が多いことでも知られます。
そんなブラックメタルの歴史を語るうえで外せないのが「ブラックメタル・インナーサークル」。
90年代初期のノルウェーでは、ブラックメタルバンドやその関係者がこう呼ばれ、ヨーロッパ中の教会で放火や殺人などのおぞましい事件を起こしました。
今回は、ブラックメタル・インナーサークルとその最重要バンド・メイヘムについて見ていきましょう。
ブラックメタルにおいて「インナーサークル」という団体の活動が目立ってきたのは1990年代。
当初は「インナーサークル」というと、単にノルウェーのブラックメタルバンドやその思想に共感する人たちといった位置づけでした。
しかし次第に「誰が最も邪悪か」を競うように様々な事件が起き、サークルは過激化していきます。
その口火を切ったのが「Burzum」で活動していたヴァルグ・ヴィーケネスで、彼は1992年6月にノルウェーの有名な礼拝堂に火を放ちました。
この事件をきっかけに、インナーサークルの若者たちはアンダーグラウンドで次々に事件を起こしていくことになります。
ブラックメタルの血塗られた歴史を語るうえでの最重要バンド・メイヘム(Mayhem)。
ブラックメタルの始祖のような存在であり、エンペラー、ダークスローンらと共にブラックメタルの一時代を築きました。
中でもボーカルのデッドはブラックメタル特有の死神のような化粧のパイオニアとなり、後のバンドにも多大な影響を与えています。
はっきりいいます。彼ら、イカレてます。
これから紹介するエピソードは、かなり衝撃的ですのでご注意ください。
ボーカルのデッドは常に「自分は既に死んでいる」と言い、それを信じていました。
自傷行為の他、自分の服を墓に埋める、鳥獣の死臭を吸い込むなどの奇行も目立っていたようです。
そして1991年、手首を切った後にショットガンで自らの頭を撃ち抜き、自殺します。
遺書には「血をぶちまけてしまい、申し訳ない。さぁ、パーティを始めよう」と書かれていたそうです。
デッドの遺体はギタリスト・ユーロニモスによって発見されます。
しかし彼は真っ先にカメラを構え、遺体の写真を撮影。そしてなんとデッドの頭蓋骨の一部を持ち去ったともいわれています。
ユーロニモス(Mayhem)「俺たちにはもうヴォーカリストがいない!デッドが自殺したんだ、二週間前にさ!ほんと悲惨だったぜ。最初に手首の動脈全部刻んで、それからショットガンで頭をぶち抜いたんだ。最初に見つけたのは俺だったんだけど、ゲッってくらいに気味悪かった。頭の上半分が部屋中に飛び散って、下半分はベッドの上まで脳味噌が流れ出してた。もちろん俺はすぐカメラを持ってきて写真を撮った。次のメイヘムのアルバムで使うつもりだよ。俺とヘルハマーはほんとラッキーで、彼の頭蓋骨の破片のでっかいのを二つ見つけてさ、それを形見のペンダントにしてる。」
出典:ugNews today(https://ugnews.net/special/blackmetal_memo.html)
ユーロニモスは、この言葉通り彼の遺体の写真を次のアルバム「ドーン・オブ・ザ・ブラックハーツ」のジャケットに使用しました。
頭蓋骨が砕かれ、脳みそがあらわになったその写真はブラックメタル史上でも類を見ない猟奇的なジャケットとなっています。
ユーロニモスの言葉にもありましたが、彼らはデッドの頭蓋骨を持ち去り、ペンダントにして所持しているとも語っています。
そのペンダントはいくつかあり、スウェーデンのブラックメタルバンド・マーダック(MARDUK)のギタリスト・モルガンがそのうちひとつを所持していると語っています。
頭蓋骨を受け取ったのは全部で5人いるそうなのですが、他に受け取ったのが誰なのかは明らかではありません。
デッドの頭蓋骨は、現在どこで誰が持っているのでしょうか。
デッドはナイフで手首を切った後に自身でショットガンを打ち抜き、自殺したといわれています。
しかしユーロニモスが撮影した「ドーン・オブ・ザ・ブラックハーツ」のジャケット写真をよく見ると、ショットガンの上にナイフがあるのです。
最後にショットガンを撃って自殺したということですから、ショットガンの上にナイフがあることはおかしいのでは…?という推察もあり、他殺説も浮上しています。
ユーロニモスは生前からデッドとトラブルを起こしがちであり、自殺を勧めるような発言もしていたそうです。
しかしジャケット撮影用に現場のレイアウトを整えた可能性もあり、公には自殺として処理されているため真相は不明です。
奇しくもデッドの死によって知名度を上げ、ブラックメタルは一時代のムーブメントとなります。
そんな中、ユーロニモスは自身でレコード会社を立ち上げ、前述した「Burzum」というバンドのヴィーケネスと知り合います。
しかしレコード会社の運営資金繰りで2人はトラブルになり、ヴィーケネスは逮捕されユーロニモスは会社を畳んでしまいました。
そして対立が深まった1993年、ヴィーケネスはユーロニモスの自宅に「バンド用のギターリフを考えた」などと嘘をついて向かいます。
そしてユーロニモスがドアを開けるなり、ヴィーケネスはナイフで彼の体を23回も刺し、殺害します。
ヴィーケネスは裁判で正当防衛を主張しますが、裁判では認められず21年の実刑判決を受けました。
その一件後、ブラックメタル界では殺人・傷害・放火など様々な事件が明らかとなり、ノルウェーでは社会問題にまで発展します。
これをきっかけにインナーサークルは壊滅状態に追い込まれ、ブラックメタルの時代は終焉を迎えました。
しかし、メイヘムはメンバーチェンジを繰り返しながら現在でも活動を続けています。
悪名高い事件の数々により一時は迫害されましたが、その思想や音楽性は現在のデスメタルやへヴィミュージックに多大な影響を与えています。
音楽ジャンルが単なる演奏技法・表現方法のひとつという意味合いが強くなった現代、彼らの音楽はどのように進化していくのでしょうか。