(1)パラレルワールドが存在し、それに干渉できると仮定し、
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(2)夢の中で未来のパラレルワールドを自分の意思で見ることができ、
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(3)その記憶をもったまま過去の(現実の)世界で目覚めることができれば、
将来起こる出来事に対処しながら行動していけるので、人生をやり直すための「過去へのタイムリープ」が実現できると仮説を立て、(1)の「パラレルワールドが存在し、そこに干渉できる可能性」を探った。
そして、さまざまなパラレルワールドの中でもブレーンワールドならば(一般的な観測手段では見るすべがないものの)すぐ近くに存在する可能性があることを紹介した。
今回は、(2)の未来のパラレルワールドを自分の意思で見るために「夢をコントロールする方法」を考察していく。
夢をコントロールする方法として真っ先に思いつくのが「明晰夢(めいせきむ)」だ。
「明晰夢」とは、眠っている間に夢の中で「今自分が夢を見ている」と気づく夢のことだ。慣れてくれば、夢の世界のできごとを自分の思い通りに変化させることもできるようになる。
「そんな特別な夢なんかめったに見られるわけない」と思うかもしれないが、以前たまたま見ていたテレビ番組(「ほんまでっかTV」2016年6月29日放送分)で、女優の桐谷美玲さんが、「夢の中で夢を見たことがある」というまさに明晰夢の体験を語っていた。
しかもその頻度は2日に1回程度だという。
※桐谷さんは夢の中で自分を見下ろしていたという体外離脱を示唆する発言もしていたので、美しいだけでなく夢のコントロールの才能も長けていそうだ。
「明晰夢」は思ったほど特殊な夢ではなく、はるか昔から研究されてきた。
東洋では、古代インドのヒンドゥー教やチベット仏教において、ヨガのトレーニング方法の1つとして「夢の中で夢を見る技術」が取り入れられていた。
西洋では、紀元前350年、ギリシャの哲学者アリストテレスが夢に関する著作の中で「眠っているとき、意識の中の何かが、今見ているのが夢にすぎないことを教えてくれる」と述べている。
17世紀の医師トーマス・ブラウンや19世紀フランスの学者マリー・ジャン・レオンとエルヴィー・ド・サン・ドニらが出版した夢に関する本の中でも明晰夢についての記述がある。
20世紀に入ると、フロイトによって精神分析学における夢の分析がなされ、1913年にオランダの精神科医で作家のフレデリック・バン・エーデンが、「夢の研究」という論文の中で「明晰夢(Lucid dream)」という言葉をはじめて使用した。
1968年にはイギリスの作家セリア・グリーンが、明晰夢の特徴を分析し、「REM睡眠(Rapid Eye Movement sleep/急速眼球運動睡眠)」や「偽の目覚め」との関連を指摘した。
明晰夢の本格的な科学研究は、1970代後半から1980年代にかけて、米スタンフォード大学の心理生理学者スティーヴン・ラバージによってなされた。
ラバージ博士は、被験者が自由に明晰夢状態に入るための技術「MILD(Memory Induced Lucid Dream/記憶誘導型明晰夢)テクニック」を開発し、総合的な明晰夢分析に関する論文を発表した。
1985年に出版した「明晰夢 夢見の技法」は、現在でも一般向けの明晰夢研究書として愛読されている。
ラバージ博士の「MILDテクニック」は、それほど難しいものではない。
簡単に言えば「2度寝」を利用して、夢の中で夢を見ていることに気づく方法だ。
誰でも睡眠中にトイレなどで目が覚めることがあるが、再び眠りにつく際「夢の中で夢を見ていることを思い出す」と自分自身に言い聞かせながら眠る。
タイミング的には寝はじめてから5時間後に目を覚ましたときがベストだ。
目を覚ましたとき、直前に見ていた夢の内容を思い出す。
そして再び眠りに戻る際、さきほどの夢の続きを見るように意識し、「夢の中で夢を見ていることに気づく」と念じながら眠りにつく。
成功すれば、夢の中に戻ってもそれが夢である自覚することができ、さらに夢の内容をコントロールすることも可能になる。
fMRIのような脳内の神経活動の画像化技術の進化により、より科学的に明晰夢を見ている脳の状態を研究できるようになった。
2014年、ドイツのヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学のウルスラ・ヴォスらの研究チームは、REM睡眠中の被験者の脳へ、特定の周波数の電気刺激を与えることで、明晰夢へ誘導する実験に成功した。
●ガンマ帯域の前頭低電流刺激による夢の自己認識への誘導
2014/5/11 Nature Neuroscienceより
ヴォス博士らの研究チームは、「tACS(経頭蓋交流電気刺激)」と呼ばれる技術を用いて、明晰夢が起きる原因を調べた。
tACSは2つの電極を頭部に取り付けて、人体に無害な微弱な低周波電気信号を脳に送る装置だ。
18歳から26歳までの男女27名の被験者にtACSを装着し、睡眠実験室で最大4泊すごしてもらった。
研究チームによると、tACSの周波数を2ヘルツ~100ヘルツの帯域で実験した結果、25ヘルツ帯で58%の人が、40ヘルツ帯で77%の人が明晰夢を見たと報告した。
被験者によれば「自分が夢を見ていることを自覚していた」という典型的な明晰夢の感想の他、「まるで自分を外側から見ているようだった」とか「画面に映った映像を外側から見ていた」など体外離脱を連想させる報告もあった。
ヴォス博士はこの実験結果から、「25ヘルツや40ヘルツ」といったガンマ周波数帯域が最も明晰夢を誘発させるのに効果的だと結論付けた。
このガンマ周波数帯域は、典型的なREM睡眠に見られる周波数(4~7ヘルツ)よりもはるかに高く、明晰夢が夢を見ている状態と覚醒時の意識の中間にあるという裏づけになっており、非常に興味深いという。
ヴォス博士はまた、この帯域のガンマ周波数で前頭葉や側頭葉を刺激するtACSを市販化できれば、それを装着して誰もが簡単に明晰夢を見られるようになると述べている。
以上から(2)の未来のパラレルワールドを自分の意思で見るために「夢をコントロールする方法」として、ラバージ博士の「MILDテクニック」を試してみるか、ヴォス博士のガンマ周波数帯を発生する装置の市販化に期待しよう。
さて、次回はいよいよ(3)の未来のパラレルワールドの記憶をもったまま過去の(現実の)世界で目覚める方法を考察し、人生をやり直すための「過去へのタイムリープ」の実現性を統括する。