インナーサークルの放火事件、自殺に殺人事件…何かと血の気の多いブラックメタル界ですが、その中でもマニアの間で伝説となったバンドがいます。
それがブラックメタルの聖地・スウェーデンのSilencerというバンド。
このバンドはアルバムをたった1枚リリースしただけで活動を終えたのですが、なぜこんなにも知名度が高いのでしょうか。
今回は、ブラックメタル界でも伝説となったバンド・Silencerについて紹介します。
このバンドが伝説となったのは、音楽性があまりに狂気にまみれていたからです。
暗く悲しいギターとドゥーミーでデプレッシブなドラム、そこにNattramnの悲痛な歌声とも叫び声ともとれない声。
曲を聴いた人は即座に陰鬱な気分になることでしょう。
特にボーカルNattramnは唯一無二。メタル界には後にも先にもこんな狂ったボーカリストはいません。
デスメタルではグロウル・ガテラルといった歌唱法がよく使われます。日本では「デスボイス」なんていいますね。
しかしNattramnはそんなもの一切使わず、ただただ猟奇的な叫び声をぶつけてくるだけ。そこにメロディやリズムといった音楽的な概念はありません。
ボーカル・Nattramnの狂気のボーカルスタイルはキャラ作りや表現方法の一種でなく、彼は本物の狂人でした。
普段から奇行が目立ち、2001年にアルバム「Death – Pierce Me」を発表した直後に精神病院に強制収容されてしまいます。
ボーカルを失ったSilencerは、その後あっけなく解散。
ボーカルが精神病院にぶち込まれ、アルバム1枚のみで活動を終了…皮肉にも、これは陰鬱なバンドの世界観にいっそう狂気を感じさせるエピソードとなりました。
Nattramnはスウェーデンのベクショーという場所にある精神病院に入院したといわれています。
入院中も彼の奇行は目立ち、2001年5月には「私はトーマスクイック(有名な連続殺人鬼)のように少女を殺し、有名になる」とのメモを残し、病院を脱走しました。
その後Nattramnは公園で2人の少女を襲い、そのうち1人を斧で殴ります…。
Nattramnはバイクで逃走を図るも警察に捕まり、精神病院に連れ戻されたのでした。
Nattramnは精神病院に入院中の2006年、リハビリの一環としてソロプロジェクトを始めます。
Silencerのようなブラックメタルではないものの、アルバムの世界観とも通じるダークアンビエントでした。
Nattramnが音楽を始めたころに作ったのもこのようなアンビエント系の音楽で、ブラックメタルにも影響されたスタイルです。
2007年には300枚限定でアルバムもリリースされており、2011年には写真と詩集を本にして出版しています。
狂気のボーカル・Nattramnばかりが注目されがちですが、実はこのバンドの作曲を担うLeereも確かな腕を持っています。
Leereはギターとベースを担当していますが、彼の作る曲は不穏でデプレッシブなのにどこか美しさを感じます。
曲の展開も静と動のコントラストが効いており、あえて音質を落としたようなアンダーグラウンド感も見事です。
Leereの作る楽曲が、Nattramnの断末魔のようなめちゃくちゃな叫び声をいっそう引き立たせていたといえるでしょう。
Leereはその後「SHINING」というブラックメタルバンドに加入し、活躍します。
Silencerはボーカル・Nattramnが精神病院に強制収容され、今や伝説となったバンドです。
しかしこのバンドがデプレッシブブラックメタル界はおろか、その後のへヴィミュージック界隈に与えた影響は計り知れません。
聴く人を選ぶバンドではありますが、このバンドの沼にハマる人も少なくないはず。
気になった人はぜひSilencerをチェックしてみてくださいね。