世界の多くに残された神話の共通点の1つとして『終末論』が挙げられますが、北欧神話も同じく最後には神々の争いによって世界が滅ぶことが示唆されています。
オーディンをはじめとした神々が戦いを引き起こし、最強の神であるトールも他の神々と同じく命を落としてしまいます。
ロキやその息子であるフェンリル、ヨルムンガンドなども含めた怪物や生物、巨人などが入り乱れた最後の戦いを『ラグナロク』と言います。
そのラグナロクの中、最後の最後に世界中を炎に包んだと言われているのが、炎の巨人スルトによる世界の消失です。
世界中にスルトが炎を放ったことによって、一度世界は消失してしまうのです。
画像引用元:スルト
炎の巨人スルトは雌牛アウムドラなどと同じく、かなり古くからの存在だと言われていますが、どのように誕生したのか?といったことについては言及されていません。
一説にはオーディンやトールといった神々によって追いやられたあとの巨人族の国であるムスペルヘイムの入り口を守る役割をしていると言われており、その手には『レーヴァテイン』という巨大な炎の剣を持っています。
スルトの出典があるのは、北欧神話が形として残された『スノッリのエッダ』『古エッダ』『巫女の予言』の3種類ですが、スノッリのエッダでは国境の番人として言及されており、古エッダと巫女の予言ではラグナロクが起こるまで登場しない存在でもあります。
しかし、いずれの文献においてもラグナロクが始まってからは、神々の敵として戦います。
北欧神話においての終末の日は、ラグナロクと呼ばれる神々に対して世界中の怪物や巨人、そして元は神であったロキなどがオーディン達の軍勢に反旗を翻して戦う最終戦争のことを言います。今回紹介しているスルトは、神々の敵としてフレイを倒します。
この最後の戦いの中で、最後まで生き残ると言われているのが炎の巨人スルトなのです。
北欧神話のラグナロクは最初に生き物が死に絶えるところから始まります。
フェンリルの子であるスコルとハティによって太陽と月が飲み込まれ、世界から星が消え去ってしまうのです。
この出来事をキッカケに、世界は混乱に陥り、それまでは封印されていたヨルムンガンドなどの怪物なども自由に動けるように。
ロキが率いたムスペルの子と呼ばれる軍勢が神々に攻め込むと、神々とロキ、巨人、怪物の戦いが起こりますが、その戦場に現れるのが炎の巨人スルトです。
フレイと戦ったスルトはフレイが武器を持っていなかったことから勝利を収めると、その周囲では他の怪物や神々が次々と相打ちしてしまいます。
そして最後に生き残ったスルトは全世界に炎を撒き散らし、その炎は全てを燃やし尽くすと言われているのです。
北欧神話の世界において最後の生き残りになったスルトですが、実は世界を燃やし尽くした後の行方なども描かれていないため、スルトがどこに行ったのか?死んでしまったのか、生きているのか、といったことも分からないとされています。
全体を通して北欧神話では、オーディンやロキ、トール、フレイなどの神々のエピソードに加えて、霜の巨人族や人間の英雄の話は出てきますが、スルトの描写は先にも述べたように”無いに等しい”のです。
しかし、ラグナロクという最後の戦いにおいては最後まで生き残るという存在であり、世界を焼き尽くすという、ある意味ではもっとも不思議な存在だと言えます。
画像引用元:北欧神話
北欧神話は基本的に文献が散乱しているため、解釈によって世界が崩壊した後の様子が変わります。
バルドルという神が世界の終末を迎えた後に復活するという説もあれば、世界が全て燃やし尽くされたあとには『何も残らない』という説もあるのです。
いずれの説であっても、世界が一度炎に包まれて終末する展開には違いがありません。
スルトについては火山をイメージしているとも言われていますが、それが事実であれば、世界的な規模の噴火などが関係しているのかも知れません。
歴史を見ると、大きな噴火は過去に何度も起こっており、これらが神話となって伝わったのが北欧神話なのかも知れませんね。
▼北欧神話は図説で理解するともっと楽しいです