【思考実験:テセウスの船】なにをもって「同じ」とするか

皆さんは「思考実験」という言葉をご存知でしょうか。

文字通り頭の中で想像するだけで行う実験のことで、科学の基礎原理に反しなければ、どのような仮定をたてても実験ができます。

実験というと少し難しく感じますが、実は意外と身近なところにも潜んでいます。

今回は、有名な思考実験のひとつ「テセウスの船」について紹介します。

テセウスの船とは

思考実験「テセウスの船」は、古代ギリシャ神話に由来します。

テセウスがアテネの若者と共に(クレタ島から)帰還した船には30本の櫂があり、アテネの人々はこれをファレロンのデメトリウスの時代にも保存していた。このため、朽ちた木材は徐々に新たな木材に置き換えられていき、論理的な問題から哲学者らにとって恰好の議論の的となった。すなわち、ある者はその船はもはや同じものとは言えないとし、別の者はまだ同じものだと主張したのである。

交換した部品はそれぞれ同じ種類の木材・同じ形であり、パッと見は元の船と同じでしょう。

しかし、オリジナルの部品はすでに交換された古い木材であり、修繕後の船は元の船と「同じ」といえるでしょうか?

そんなパラドクスが「テセウスの船」なのです。

例題①プロ野球チーム

「テセウスの船」を私たちの身近な事柄に置き換えてみると、もっとわかりやすくなるかもしれません。

例えばスポーツチームであれば、選手や監督の移籍・引退など、入退団を繰り返し発足当時のメンバーはどんどんいなくなっていきます。

(現実的には有り得ませんが)もし読売ジャイアンツの選手・スタッフが一斉に埼玉西武ライオンズと入れ替わるとします。

このとき、ジャイアンツファンはどちらを応援すれば良いのでしょうか。

この場合「読売ジャイアンツは、なにをもって読売ジャイアンツとするか」ということが問題の本質です。

「読売新聞が運営しているセ・リーグの球団が読売ジャイアンツだろ」と思う人もいるでしょう。

しかし、現在東京ドームでオレンジ色のユニフォームを着て戦っているジャイアンツは、4番・山川穂高を中心とした打撃中心のチームで、ベンチでは辻監督が指揮をとっています。

ほとんどの人は「今のジャイアンツはジャンアンツだがジャイアンツではない」といったモヤモヤを抱えてペナントレースを見守るのです。

例題②お気に入りのぬいぐるみ

ある女の子は、小さいころからずっと大切にしていたぬいぐるみを肌身離さず持っています。

女の子はとある日、ぬいぐるみを失くしてしまい、泣きながら家に帰ってきました。

見かねた両親は、同じキャラクターの同じぬいぐるみを探し、女の子に買い与えます。

しかし、女の子はなぜかそのぬいぐるみを「同じじゃない!」といって受け取りませんでした。

なぜ女の子がこんな態度をとったかと問われると、ほとんどの人は「ぬいぐるみに愛着があったから」と考えるでしょう。

しかし、この場合の「愛着」とはかなり曖昧なものなのです。

今回は女の子がぬいぐるみが新品に入れ替わる過程が明らかでしたが、もし女の子が寝ているうちに枕元のぬいぐるみを新品にすり替えていたら、女の子はその後もぬいぐるみに愛着を持ったまま過ごすでしょう。

感情的にいう「愛着」は、論理的にどうやって証明すれば良いのでしょうか。

突き詰めると「アイデンティティー」にも関わってくる

テセウスの船は、突き詰めると自分自身についても考えなくてはなりません。

人間は古くなった細胞を再生し入れ替わりながら生きており、3カ月もすると全ての細胞は入れ替わるといいます。

では、果たして現在の自分は3か月前の自分と同じ自分であるといえるでしょうか。

まとめ

世の中のあらゆるものごとは流動性を持っています。

推しメンが卒業したからアイドルグループのオタクをやめるのか。バンドメンバーが代わると、新メンバーでの楽曲はそのバンドの曲として認められないのか。

物事を構成する要素が違っても、同一性を保てる場合とそうでない場合にはどういった違いがあるのでしょうか。

この問題を日ごろから考えておけば、まいやんが乃木坂46を卒業したとき、マリリンマンソンがマリリンマンソンから脱退したとき、スムーズに思考を整理して自分なりの結論を出すことができます。

似たような思考実験に「ポールワイスの思考実験」や「ロックの靴下」という思考実験もあるので、興味がある人はぜひ調べてみてくださいね。