これはかつて、東京都西部のスーパー従業員3人が射殺された『八王子スーパー強盗殺人事件』に関する記事の【パート5】です。本編をお読みになる前に、ぜひとも【パート1~4】をお読みください。
事件の解説
本事件において、その犯行が「強盗説」と「怨恨説」の両面で見立てられているが、「強盗説」が持ち上げられている理由は前パートでお伝えしたとおり。本編では「怨恨説」について言及する。
怨恨説
稲垣さんは生前に人間関係のトラブルを抱えていた
稲垣さんを知る関係者によると、稲垣さんは気性の荒い性格であったという。それ故に、人間関係のトラブルが度々あったといわれている。このトラブルというのは、いずれも男性絡みであった。
例えば、飲食店で連れの男性を激しい口調で罵倒している様子がしばしば目撃されていたほか、稲垣さんにはパトロンがいたが、この男性が金銭的援助を滞ったことによるトラブルなど、俗っぽく生々しい人間関係を持っていたことが明らかになっている。それだけに、人に恨みを持たれやすい人物像であったことは否定できない。これを裏付けるように、かつて稲垣さんはカッターナイフの刃が同封された脅迫文を送りつけられたことがあったという。ちなみにその内容は「このままだと命がないぞ」という非常に強い恨みの念を感じさせるものであった。
強い殺意が窺える殺害方法
本事件の被害者となった3人はいずれも頭部(脳幹)を撃ち抜かれている。それも銃口を頭部にぴたりと付けるような至近距離で発砲されている。
一般に、こうした至近距離から躊躇なく発砲できる人間は少ないといわれている。ちなみに、なぜか稲垣さんだけは2発撃たれている。左のこめかみと頭頂部である。恐らく1発目で左のこめかみを撃ち抜かれ即死であった。しかしそれでも尚、頭頂部に発砲というなんとも冷酷で残忍な方法で殺害されている。
※犯人が躊躇なく発砲したと考えられるのは、犯行時間が短いと推察されることから
大脳と脊髄をつなぐ生命維持において重要な部位。こめかみの辺りに位置する。
犯行時の犯人の動き
犯人はその犯行の様子から、セキュリティ面の甘さをはじめとした店のさまざまな事情を把握していたことを窺わせている。しかしながら、事務所内で犯人がみせた動きからは、金庫内の売上金に固執した印象は受けない。
ちなみに、事務所に押し入った際の犯人の動線は「出入り口から金庫への一直線」であった。すると”金庫内の売上金に固執した印象は受けない”という前言と矛盾するようであるが、そうではない。もしも犯人が売上金目的ならば、夜間責任者であると窺える稲垣さんに金庫を開けさせるはずである(稲垣さんは金庫の開け方を知っていた。それを犯人が把握していたかは不明)。しかし、犯人は押し入ってすぐに3人を殺害している。また事務所内を物色した形跡もなかった。
これが仮に売上金目的の犯行であれば、犯人はより長く事務所内に滞在ないし3人を生存させておくはずである。ところが本事件にはそういった様子がみられない。
向かって奥の半個室にあるのが店長の机
なんと事務所内の店長の机には、金庫のダイヤルロックを解除するナンバーを書いたメモが貼りつけられていた。
仮に犯人が事務所内を物色していれば、店長の机は間違いなくその対象となるはずである。するとまず間違いなく、そのメモに気付いただろう。こう言ってはなんだが、犯人は「物色」というワンアクションを行わなかったことで500万円ほどの売上金を逃している。
店の過激な対応
ここまでお伝えしたように、稲垣さんに関しては誰かに恨まれるような節は充分にあった。しかし、そのほか(殺害された矢吹さんと前田さん、店、経営陣など)に関しては怨恨の対象となる点はこれといって見当たらない。
とはいえ、店の過激かつ挑戦的な姿勢は少々気になる。というのも、店は日常的に万引き被害に遭っており、その万引き犯に対して警告文を店頭に貼っていた。その内容が「泥棒野郎へ」と題した刺激的なもので、”敵”に対しては非常に強気な姿勢をみせていた。そのため、店が犯罪者に恨みを買われていた可能性も少なからずあるといえる。
殺害現場の様子については【パート6】にて。