日本で暮らし、本や映画、漫画などのカルチャーにある程度触れてきた人ならば、大抵は「安倍晴明」という人物を知っているだろう。歴史の教科書に大きく取り上げられているわけでも、後世に残るような改革を行ったわけでもないが、安倍晴明は様々な漫画、アニメ、ゲーム等でキャラクター化され、人々に愛されてきた。
そんな安倍晴明ゆかりの神社、その名も「晴明神社」が京都にある。今回は、陰陽道を学ぶ人間だけでなく、多くの人々から「パワースポット」と噂されるこの神社についてご紹介したい。
[amazonjs asin=”4909646027″ locale=”JP” title=”日本の結界 陰陽師が明かす秘密の地図帳”]陰陽道の第一人者? 安倍晴明とは
画像引用元:fami-geki.com
まずは、そもそも安倍晴明が一体どのような人物なのか簡単に説明しておこう。
安倍晴明は平安時代の人物で、鎌倉時代から明治時代まで陰陽寮を総括していた土御門家の祖に当たる。陰陽寮とは行政機関のひとつで、主に占いを行ったり、暦を作ったりといった業務を担当していた。陰陽師というと病を調伏したり呪い返しをしたりといったイメージが強いかもしれないが、暦作りなど高度な計算技能が要求される業務も執り行っていたのである。
安倍晴明は、そんな「陰陽師」の代表的な存在だ。日本で最も有名な陰陽師だと言ってもよいだろう。
平安時代中期の生まれであることは間違いないが、その出生や系譜については諸説あり、今でも謎に包まれている。最も有名なものは『竹取物語』にも登場する有名な大臣・阿倍御主人(あべのみうし)の子であるとする説だが、他にも阿倍仲麻呂の子孫だとか、いやいや実は狐と人間との間との子なのだとかいう説まであり、真偽は謎に包まれている。まあ、そもそも人間とは優れた人物の血統には何か特別なものを求めたくなってしまう生き物だ。案外、安倍晴明はどこかで才能を見出されただけで、名もない一族の出身だったのかもしれない。
時を超えて現代に残る、数々の晴明伝説
そんな安倍晴明に関する伝説は、それこそ枚挙にいとまがない。多くの作品で題材にされている通り、有名だったのは式神の使役だ。伝説によれば、安倍晴明は十二天将と呼ばれる12の式神を使役し、一条戻橋の欄干の下に隠していたという。
十二天将とは陰陽道で使われる12の象徴体系で、よくわからない人は、干支とか12星座のようなもの、と覚えておけばよいだろう。
実は一条戻橋はそれ自体色々とオカルティックな逸話の多い、いわば古からの心霊スポット的存在である。百鬼夜行が通るのを目撃したとか、鬼に腕を掴まれたとか、当時はそういった恐ろしい噂が後を絶たなかった。そんな一条戻橋に自分の式神を隠していたというのだから、このエピソードをひとつとっても安倍晴明がどれだけ超人的な人物だったか窺い知ることができるだろう。
晴明神社の外壁には、他にも安倍晴明に関する有名な逸話を描いた絵と解説のパネルが展示されている。時間があればひとつひとつをゆっくり見て回り、この著名な陰陽師がどれほど人間離れした存在だったかに想いを馳せてみるのもよいだろう。
魔術の文化は世界共通? 五芒星だらけの境内
晴明神社に足を運んだ際に是非注目して欲しいのが、境内のあちこちに配置された五芒星のモチーフだ。オカルトや魔術に馴染みのある人ならすぐにピンと来るだろう。そう、西洋でも五芒星、すなわちペンタクルのマークは魔術的なモチーフとして扱われてきたのである。
ここに、西洋(特に最も有名な魔術的思想であるカバラ思想)やユダヤとの繋がりを感じる人もいるかもしれない。確かに、日本とユダヤには歴史的に繋がりがあったとする説も多く囁かれている。だが、筆者はどちらかといえば、この奇妙な一致は、ユングの言うところの集合的無意識のなせる技ではないかと考えている。集合的無意識とは、遠く海を隔てた外国に住んでいようと、はたまたある程度異なる時代を生きていようと、人々の心の奥底にはある程度共通のモチーフが存在する、という説である。
たとえば、遠く離れたギリシャと日本に、非常によく似た「黄泉下り」の神話が存在するのは、我々が人類として意識の根っこの部分で同じイメージを共有しているからだ、というのだ。
晴明神社では、この五芒星を桔梗印と呼んでいる。これは安倍晴明が自身で考案した文様であり、その後の陰陽道においても重要なモチーフとして使われるようになったものだ。実際、志摩地方の海女たちが身につけていたお守りとして知られる「セーマンドーマン」の「セーマン」はまさしくこの桔梗印であり、「セーマン」の名はもちろん、安倍晴明からとられたものである。
左がセーマン、右がドーマンだ。
ちなみに20本の線からなる格子状のモチーフである「ドーマン」の方は、安倍晴明のライバルとして知られる陰陽師、蘆屋道満の名にちなんでいると言われている。
晴明が桔梗印を考案するにあたって、西洋におけるペンタグラム(五芒星)を知っていたかどうかはわからない。もしかすると、魔術的に効力のある印だとどこかで聞き及んで採用したのかもしれない。だが、遠く離れた地で魔術やまじないに携わる者たちが、それぞれに、偶然同じモチーフを生み出したのだとすれば、それは我々の集合的無意識の奥底に、人智を超えた力を引き出してくれるものとして、この五芒星が光り輝いていることの証左ではないだろうか。
[amazonjs asin=”4909646027″ locale=”JP” title=”日本の結界 陰陽師が明かす秘密の地図帳”]まだまだ見所いっぱい! 晴明神社を楽しみ尽くそう
そんな安倍晴明を祀る晴明神社は、決して大きな神社ではないが、見るべきものの多い観光スポットでもある。以下にざっくりとご紹介するが、詳しくは是非、自分の足で訪れて確かめてみて欲しい。
病を癒す水が湧く「晴明井」
晴明井は、五芒星の形の石からちょろちょろと水が湧き出ているパワースポットだ。この水は吉祥水と呼ばれ、病の治癒などに効果があるらしい。確かめたわけではないが、もちろん飲料可能な水であろう。志納金を納めれば持ち帰ることができるため、筆者も一口ほど飲んでみた。たちどころに体力が回復するということはなかったが、どことなく涼やかな口当たりの水である。500mlのペットボトルで売られていたら、500円くらいなら出して買ってしまうかもしれない。
ちなみに、画像右上の注ぎ口はその年の恵方によって変わる。常に恵方を向くよう設置されているため、水が汲みにくいからといって勝手に石を回してはいけない。
樹齢300年以上。悠久の時を感じる御神木
晴明神社には、御神木として樹齢300年以上の楠(くすのき)が祀られている。古くからある木を御神木としているのはよくあることだが、晴明神社の楠はなんと、周囲をぐるりと踏み台で囲われており、ここに乗って両手を回して抱きしめることができる。
側に建てられた解説の札にも触れることを推奨する文句が書かれているのだから太っ腹だ。実際に腕を回してみると、想像よりもずっとなめらかでひんやりとしていた。多くの神社では、別に御神木に触れることを禁止しているわけではないのだが、それでも堂々と抱きしめるのは少し勇気がいるだろう。そんなあなたは、是非晴明神社で樹齢300年の歴史を体感して欲しい。
お土産・桔梗印グッズにももちろん対応! 参拝後は境内のショップへ
桔梗印というわかりやすいモチーフがあるおかげか、晴明神社の境内ショップは充実している。社務所で御朱印やお守りの授与を授与してくれるのはもちろん、桔梗印をあしらったステッカーやピアスなど、陰陽道に明るくなくともオカルトマニアならば垂涎もののアイテムが所狭しと並んでいるのだ。晴明神社に参拝して古の陰陽道のパワーを貰ったら、帰りには桔梗印の描かれたキーホルダーやアクセサリーを買っていくのもいいかもしれない。
何しろ桔梗印=ペンタクル、五芒星は世界共通の魔術的モチーフ。あなたが世界のどこにいようと、きっと助けになってくれることだろう。
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