犬神という概念は、少なくとも日本の平安時代頃には認知されており当時の「犬神使い」と呼ばれた人々は、庶民や敵の多い権力者、あるいは朝廷にまで危険視されたり忌避される存在であったことを第2話では考察してきました。
呪詛、呪いといった文化はよくよく考えてみると日本だけのものではなく、世界中にありますよね。
例えば、サタニズム(悪魔崇拝)に由来する黒魔術では悪魔と契約を結ぶことで寿命を始めとした供物と引き換えに「人外の力」を手に入れるというものであったり、仏教の中でも密教の一部では自分自身の行いが呪いとして「輪廻転生」に影響すると唱える説もあったりします。
「他者へ害を成す」ということが前提の思い込みから始まった大きな事件で言えば、日本の平安時代に近い中性ヨーロッパにおける魔女狩りなども挙げられると思います。
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話しを戻して現代。
「犬神家」「犬神憑き」と呼ばれる家系や系譜は「先祖が大きく関わっている」と言われています。
前回の記事でも少し触れましたが、犬神系譜は血筋や先祖の職によって決まっていると信じられていることが多く、こういった信仰の背景から、四国の地方によっては婚姻をする時にお互いの血筋や血縁に「犬神筋」がいないかを確認したりする風習も残っているのです。
もちろん、こういった風習は少なくなってきていますが「自分が犬神家だった」あるいは「血縁者に犬神筋がいた」ということで結婚が破断になったという話も0ではありません。
私自身の出身が四国であることはこの犬神の系譜連載で何度かお伝えしています。
その上でここからは語りますが「犬神家」は実在します。
実は3年ほど前に私の友人の姉が結婚するということで「結婚式に来てくれないか?」といった相談がきました。友人の姉は私の中学生時代の先輩であり、近年の動向や交友関係はなかったものの当時はお世話になっていたこともあり「結婚式は行くから日程だけ教えといてね」っと電話で話しました。
それから2ヶ月くらい経過した段階でふと思い出したんです。
「あれ?結婚式ていつだったかな?」「そういや連絡まだないな」
こんな感じだったので何も考えずに普通に友人に電話しました。
「結婚式って結局いつになりそう?」
その時に友人から「姉の結婚相手が犬神筋」だという問題で結婚そのものが流れたということを聞かされたんです。
私の世代ではおそらくないであろうと思っていた犬神筋の実在を確認した瞬間でした。
ちなみに、同じ頃に私の妹も結婚しましたが、結婚の前にお互いの血筋を確認するようなことは当然のようにありませんでした。私の親もそういった風習を聞いたことがないと言っていました。
この実体験には続きがあり、結婚前に「犬神筋」だと問題にした発端は友人の曽祖父だったんですね。
話しを続けます。
この友人の姉の結婚前に「犬神筋」の問題を持ち出したのは曽祖父だったと聞かされていたのですが、どうして今の時代にそんな話になったのかと思い、少し聞いてみたところ「曽祖父が相手の名字から気にし始めた」というんですね。
正直に言うと、友人の曽祖父の判断にはどんな根拠があるのか分かりません。
もちろん友人や友人の姉、元婚約者を含めて個人情報保護や名誉のためにどこに住んでいるなどの情報をここに書くことは出来ないのですが、ここまでが私自身が犬神筋を体験した1つ目の実話です。(2つ目もありますので、後日語らせて頂きます)
しかし、犬神筋や犬神持ちという表現には第1話で書いたように「差別からくる迷信」であるという説も唱えられています。
四国地方の差別問題の1つとして「犬神筋」が挙げられることがあります。
犬神が憑いたことが原因とされる身体症状の変化は現代のてんかん発作や精神的な病に類似していることから、医学的な発展や知識のなかった時代にこういった病気が起因になっている症状を「憑き物」として扱っていたとする説です。
また、各地に伝わっている犬神の特徴である「富み栄える」という問題についても、江戸期に商業で成功しただけで疎んじられたという記録も残っているそうです。
犬神という考え方の1つとしてはもちろんこれら差別問題に関しては無視出来ません。
話をまた少し巻き戻しますが、犬神持ちに多いと言われている家系は山伏や呪術師、祈祷や巫女の血筋であったり、神示や占いなどを司ったりする霊的な修行をしていた祖先が多いとされています。
犬神はこういった霊的要素を含んだ当時の職業を持つ人々から派生し、民間の呪詛や伝承によって忌避されてきたと言える側面もあるでしょう。
日本で言えば、最も有名かつミステリアスな邪馬台国の卑弥呼などは、女性でありながら神示を受ける巫女として国を治めていたと言います(もちろん諸説あり)卑弥呼の絶対的な権力は魏志倭人伝によって証明されているところですが、その規模を小さくしたものと、中国大陸から伝来した信仰や学問などが混ざった結果、日本の文化は宗教的にも変化が起きています。
仏教や密教の伝来をはじめ、日本の古代から中世にかけては多くの大陸文化が輸入され、渡来人などによる文明の進歩なども良い影響を与えたと言われています。
日本古来の伝承や文化と大陸文化が混じった結果、いわゆる負の文化も混じってしまったのかも知れません。
キツネ憑きや稲荷信仰には渡来人秦氏の関係が多いとされていることから見ても、日本独自の文化だけで犬神が起こったとは言い切れません。
むしろ、元々の純粋な日本の祖先と大陸からの渡来人が文化を共有したことによって、民間伝承として一部地域の人間、あるいは人々から尊敬も畏怖もされるような職業を持った人達が、いわば憎まれ役を買って出た結果が犬神の血筋に繋がるのではないでしょうか?
陰陽師が官位につくほどですから、当時の霊的な能力があるとされていた人々は庶民と比べれば裕福だったのかもしれません。
安倍晴明自身は言わずもがな、息子や孫なども出世をしており当時の朝廷と密接な関係にありました。一方で朝廷とは違った民間の祈祷師や呪術師といった存在も、いわば裏の世界で畏怖されながらも頼られていたのではないかと考えられます。
当時のこういった霊的な職種は世襲制であったことが多く、それが元になり血筋=犬神持ちという定説になっていったのかも知れません。
個人的に差別問題に関しては科学的な信ぴょう性があると思っていますが、江戸期の差別意識は少し犬神とは違った形だと思っています。
江戸期の差別問題は商業で成功をした商人の家系に犬神らしき影が見当たらなかったことから、単なる妬みや嫉妬の方が大きかったと思いますね。
簡単に言えば「あいつは成功したから犬神持ちだ」というような押し付けでしょう。
根拠は簡単です。
平安時代にはすでに「犬神持ちは代々富栄える」と言われていたのですから、この論理を曲解しているようにしか見えないのです。
”成功したから犬神持ち”ではなく「犬神持ちは富栄える」
ここはかなり重要なポイントだと思います。
そして次回は、私自身が今回紹介した件よりも、もっと身近に体験した犬神と現代の陰陽師と接した際のエピソードをありのままに語ろうと思います。
先に言っておきます。どうか引かないで下さいね。