オカルトや神話・宗教に興味がある人ならば、一度は「クトゥルフ神話」という単語を目にしたことがあるだろう。
あるいはアニメや漫画、ゲームなどで「ニャルラトホテプ」とか「深き者ども」なんて言葉を聞いてクトゥルフ神話に辿り着いた人もいるかもしれない。
クトゥルフ神話はアニメや映画など様々なメディアに登場し、こんにちでも多くの人々を魅了し続けている。
しかし、いざ興味を持って調べてみようと思っても、妙な語感の横文字が並ぶばかりでよくわからない……。
そんな初心者のために、今回は「クトゥルフ神話」について、よく聞く疑問とそれに対する回答をQ&A形式で紹介していきたい。
公開日:2019年10月27日 更新日:2020年2月26日
薄々察しがついている人が大半だと思うが、クトゥルフ神話は実在する神話ではない。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトというアメリカ人作家と、彼と交流のあった作家たちによって作られた架空の神話体系である。
元々はラヴクラフトのホラー作品の中に登場するだけだった架空の神々や怪物たちが、その設定を他の作家たちにも共有され、複数の作家たちの作品に共通して登場するようになるにつれて肉付けされていったものだ。
この独自の世界観と、ラヴクラフトの同名の小説をもとに作られた『クトゥルフの呼び声』というTRPG(それぞれが自分の分身となるキャラクターを作り、そのキャラクターになりきって会話をしたり、次の行動を宣言したりすることで進めていくアナログゲーム)がブームの火付け役になったため、現在ではこのゲームの名称を取って、「クトゥルフ神話」と呼ばれている。
ラヴクラフトの作品群の最たる特徴は、その多くが「宇宙」に対する恐怖に根ざしているという点だ。
彼の作品を読み解いていくと、ラヴクラフトという作家自身が無限に広がる宇宙や底の見えない深海に本能的な恐怖心を抱いていたことがわかってくる。
そのため、彼や彼に影響を受けた作家たちの作品は、しばしば「コズミック・ホラー(宇宙的ホラー)」というジャンルで一括りにして呼称されることがある。
「クトゥルフ(Cthuluhu)」は、上述したゲーム及びラヴクラフト著の『クトゥルフの呼び声』及びその後の様々な小説に登場する架空の神格である。
クトゥルフ神話には多数の神格が登場するが、同タイトルがブームを牽引したこともあり、現在は最もメジャーな神格になっていると言えるだろう。
たとえて言うのなら、ギリシャ神話について、その代表的な神の名を持ってきて「ゼウス神話」とか「アポロン神話」と呼ぶようなものだろうか。
クトゥルフはかつて地上を支配していた旧支配者の一柱であり、今は海底に沈んだ都市「ルルイエ」に幽閉されて長い眠りについている。
そのため人間の前に直接姿を現すことはほとんどないが、テレパシーを使って人間の夢に介入して影響を与えることがあるほか、クトゥルフの奉仕種族や熱心な信奉者たちの活動によって人間が被害を受けることが多い。
その姿については諸説(というよりも諸設定か)あり、一般的にはタコかイカのような頭とコウモリのような翼を持ち、手には水かきがあり、そして表皮は鱗、もしくはゴム状のぬるぬるとした肌に覆われているとされる。また、クトゥルフ神話に登場する神格の大抵はとてつもなく巨大である。
クトゥルフもその例に漏れず、全長は数百メートルほどに及ぶという。
クトゥルフを始めとした、かつて地球を支配していた神々のことを「旧支配者」と呼ぶ。
旧支配者には他にも、クトゥルフの異母兄弟で敵対関係にあるとされる「ハスター」や、召喚した魔術師に時間を操る力を与える「クァチル・ウタウス」など、姿から能力まで多岐に渡る神格が存在する。
ほぼ全ての旧支配者は人類にとって脅威であり、出会えばまず無事では済まないのだが、後述する「旧神」によって、大抵が深海や山奥、はたまたどこかの星に封じられている。
旧支配者とは別格の、宇宙の根源そのものとされる神々である。彼らは宇宙がはじまった頃、あるいはそれよりも更に昔から存在しており、真理そのものであり、我々人類の理解の及ぶ範疇を遥かに超えた存在である(尤も、旧支配者からして我々人類には到底理解の及ばない存在なのだが)。
代表的な神々として、クトゥルフやハスターを産み落としたとされる「ヨグ=ソトース」や、宇宙の真の造物主である「アザトース」などが挙げられる。
よくわからん、という方は、とりあえず「旧支配者より更に強い別格の神」と覚えておけばよいだろう。
旧支配者たちとは対立関係にある神々である。通常、我々人間の味方になってくれることが多い。
宇宙の善性を体現する存在である。
彼ら旧神はかつて旧支配者との間に起こった戦争に勝利し、その末に旧支配者たちは深海や山奥に封じられた。
また、旧神の多くはギリシャ神話やエジプト神話で語られている神々をモデルにしており、ここにもラヴクラフトの世界観を垣間見ることができる。
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クトゥルフ神話には他にも、特定の神格と血縁関係にあり、彼らを厚く信奉している「奉仕種族」や、旧神からも旧支配者からも独立している「独立種族」など、様々な存在が登場する。
ラヴクラフトから始まり、彼の根強い支持者たちによって設定を付け加えられ己の世界観を豊かにし続けてきた「クトゥルフ神話」は、魅力的ではあるが、初心者には多少取っつき難い部分があるのも確かだ。
また、ラヴクラフト本人の手を離れてからも拡張され続けてきたこともあり、彼の作品群を1から順に読んでいっただけでは、「クトゥルフ神話」について理解するのは難しい……というか、大抵の「クトゥルフ神話」好きは、クトゥルフの世界への入門書としてラヴクラフトの著作を勧めることはまずないだろう。
そこで、最後に「もっとクトゥルフ神話について知りたい!」というあなたにおすすめの、「最初に触れるべきコズミックホラー」を紹介したい。
クトゥルフ神話のよいところは、ラヴクラフトの原典を読んでいなくても、それぞれが充分独立した作品として楽しめることだ。
気になったものがあれば是非手にとって、あなたのコズミックホラーライフを充実させてほしい。
通称「CoC」と呼ばれる、クトゥルフ神話作品ブームの火付け役となったTRPGのゲームブック(ゲームをするのに必要なルール等が記載されている本)。
クトゥルフ神話関係の会話に頻繁に登場する「SAN値チェック」とか「アイデアロール」とかいう単語はこのゲームから生まれた。いわば、現代におけるクトゥルフ神話の聖書(魔導書と言ったほうがニュアンスは正しいかもしれないが)的存在であると言えるだろう。
これを一冊購入して、あとは適当なキーパー(ゲームの進行係。大抵は熟練のプレイヤーが行う)を見つければ、初心者でも充分楽しくCoCをプレイすることができる。
分厚い上に値段も高いが、現在TRPGというジャンルの中では最もメジャーなゲームということもあり、プレイヤーも多い。
大抵皆初心者には優しいので、思い切ってプレイしてみてほしい。
また、TRPGにはリプレイと呼ばれる「実際にゲームをやってみた人たちの会話の記録」をまとめた書籍も存在するので、いきなり対人でゲームをするのはちょっと……という人は、まずこちらを読んで雰囲気を掴むのも手だろう。
それでも対人はやっぱり怖い、という人にはこちらもおすすめ。
様々なスキルを駆使して謎を解いていく一人称視点のアドベンチャーゲームで、荘厳なグラフィックや音楽、ダークなキャラクターデザイン等も相まって、クトゥルフ神話の世界観を視覚的に楽しむことができる。ただしCEROレーティングZなので、18歳未満及びグロテスクな表現が苦手な人は注意してほしい。
ゆるキャラのような独特のタッチでクトゥルフ神話に登場するキャラクターたちを描いた解説書。
クトゥルフ神話の解説書は数多く存在するが、タイトルの通り「めっちゃ雑」に教えてくれるので、初めてでも理解しやすい。
また登場するキャラクターがどれも可愛らしく親しみが持てるので、あなたの「推し神」を探すのにも一役買ってくれることだろう。
日本においてクトゥルフ神話の知名度を更にアップさせるのに貢献したアニメ作品。
旧支配者の一柱であるニャルラトホテップを美少女化してヒロインに据えているほか、他にも様々なアニメ・漫画のオマージュやパロディが出てくるので、アニメ好きならにやっとできるシーンが盛りだくさんだ。
一見複雑そうで敷居が高く見えるクトゥルフ神話だが、1人の作家が独占しているのではなく、あくまで「共有された世界観」であるというその特性ゆえに、現在では様々なメディアに門戸が開かれている。
また、同じ神格であっても作家ごとに解釈が異なることもままあり、いわば「これが正解」とはっきり呼べるものもない状態なので、初心者であろうと臆さずに入っていくことができるだろう。
もしもあなたに気になる作品があれば、恐れずに是非クトゥルフ神話の世界に飛び込んでみてほしい。
死せるクトゥルフは今も、ルルイエの館にてあなたを待っているのだから。
いあ! いあ! くとくぅるふ ふたぐん!